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ジャランジャラン・アレッポ
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△目覚めると、同室の日本人二人は既に出発していた。
  ここはシリア第二の都市アレッポにある『Spring Frower Hotel』の一室。
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△ドミトリーは1ベッド200シリアポンド、略してシリポン。50シリポンが1ドルに相当する。
  アンティークが配置された内装はなかなか雰囲気がある。
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△階段を下りた右側がレセプション。左側が出入り口。
  正面には掲示板が見える。
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△朝食代わりにぐいっと一杯、
  「バナナジュースちょうだい」「バナン?」「イエース」
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△どーん。なんですかこれ?「これバナナ?」「イエス」断言された。
  この味はあれっぽい。ハスカップのオレンジジュース割り。
  もしくはカシスオレンジのアルコール抜きにも近い。店主に25シリポンを支払う。
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△町へ出ると、さっそくひとりのオヤジが話しかけてきた。
  ひととおり職務質問が終わるとオヤジはこう聞いた。

  「何か俺に手伝えることはないか?」
  「実はアレを食べたいんだ」
  「そうか。“ジャミリエ”の“マタン・ティーバ”に行くといい。あそこのはうまいぞ」

  そこまで言われちゃ行くしかない。シリア名物の『アレ』を求め“ジャミリエ”へ。
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△聞き込みしながら歩くことしばし。“JAMILIEH-SABIL”…“ジャミリエ”だ。
  やっとそれらしき標識を発見した。
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△広場に出た。さて……。これは困った。
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△紆余曲折を経て、優しいおじいちゃんに連れられて、
  やっと“マタン・ティーバ”へ到着。一人じゃ絶対に見つけられなかった。
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△シリア名物『モロヘイヤ』。ニンニクの香りを利かせ、鶏肉と共にスープにしてある。
  何だろうこの味は。あれっぽい。納豆。納豆スパゲティのソースと言われたら納得してしまう。
  かしこまったレストランだったので、御代は少々高価な200シリポン也。
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△腹も膨れたとこで、明日のバスの時刻を調べにバスターミナルへと向かう。
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△駐車場のど真ん中で二人のオヤジがバックギャモンに熱中中。
 とり囲むギャラリーも真剣だ。

  「あのー、パルミラ行きのバスは…」
  「国内線のバスターミナルはここじゃない。あっちだ」
  「そうなんですか。あっちってどこ?」
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△場所を教えてもらい、少し離れた別のバスターミナルで出発時刻を教わった。
  今日は教わってばっかりだ。言葉も文化も地理も、そこらの子供より知らない状況では
  知ってる人に教わる意外に方法が無い。

  日本のように 「聞くは一時の恥」 なんてことは全く無い。
  逆に 「聞かれて答えられないのが恥」 と人々は考えているように思う。
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△バスターミナルの裏手を歩く。
  車通りも少なく街並みは年季を感じる。
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△なにやら人だかりが見えてきた。
  古着を売買しているようだが、大半の人々は何もせず見てるだけ…
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△ポットを持ってコーヒーを売り歩く男がいた。10シリポン。
  これは…コーヒーではない。香りも甘みも無く、強い苦味を水で薄めた焦げ汁だ。
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△そんな感じで写真をとっていたら近づいてきた男二人組。
  長身の男は英単語を少しだけ知っている。言葉の壁は険しい。
  彼らは一度別れた後、追いかけてきてジェスチャー交じりに私にこう伝えた。

  「一緒にお茶を飲まないか?」
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△経験上、ここまで険しい言葉の壁を越えられないことはわかっていた。
  けれども私はなんとなく彼らの誘いを承諾して、連れられるがままに公園へやってきた。
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△長身の男がアラビア語でいろいろと私に話しかけてくる。
  二人は友達にも見えるが、皮ジャンの男は消極的だ。
  あるベンチに導かれ座ると、皮ジャンは近くの売店へパシらされていった。
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△チャイと水タバコとポテトチップでおもてなしを受ける。

  「写真とってあげるよ。カメラ貸して」パチリ。
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△「今度は俺が」と長身の男。パチリ。
  それから二人は俺をほったらかしで何かをしきりに話し合った。
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△「俺、このあと市場へ行くんだけど」
  「OK、じゃあ行こう」

  彼らは歩きながら何度も写真を撮るよう要求してくる。
 
  「今度は俺が撮るからそっちに立ってよ」
  「いや、俺の写真はいらないんだ」
  「…じゃああの木のところへ行こう」

  と、柵を越えて芝生へ入って行く二人。
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△皮ジャンはまたポテトチップを買いに行ってしまった。

  「木のところに座ってよ。写真撮ってあげるから」と長身の男。
  「いや、俺が撮るよ。そこに座ってて」パチリ。
  「じゃあ次こそ俺が…」
  「ノーサンキュー」
  「俺が写真を撮るから、そしたらグッバイで市場へ行きなよ」
  「ノーノー。ノーサンキュー」
  「だから、俺が写真を撮るから、そしたらグッバイで市場へ行きなよ」

  あー、やっぱりこいつ、カメラ持って逃げる気だな。
  それ以外にカメラを持って距離をとりたい理由が考えられない。
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△「じゃあバイバイ」結局名前すら聞いてこなかった二人組とさくっと別れた。
  歩き出すやいなや、路上で肉を炭火焼きするケバブ屋さんに遭遇。見て即、購入決定。
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△うううーまそー。挽き肉に刻み生唐辛子を練りこんだイスラム圏お得意の味。15シリポン。
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△市場へ着く頃には陽もずいぶん傾いてしまった。
  ええと、昨日いったあの店は……
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△ここだ。「ハローミスター」おっすアブラハムさん、遊びにきたよ。
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△奥で従業員が、肉挽きで赤い練り物を練っていた。
  これは、小麦粉、油、水、ニンニク、食紅、『チャマン』を混ぜたものだそう。
  『チャマン』はザクロの皮の粉末のことだ。
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△「この肉は3日間塩漬けにして2日間干したものだよ」
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△干し肉の表面を練り物でしっかり覆う。なるほどこれは保存食だ。
  あのスカスカで苦いだけのザクロの皮をこんな風に利用するなんてすごい知恵だ。

  「明日になれば食べられるよ。また明日来るかい?」
  「えーと…ぜひ」

  こうして出発がまた伸びてしまうのだ。
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△「これ食べな」
従業員の誰かからポンとケーキを手わたされた。
このクリームはあれっぽい。駄菓子屋で10円で売ってるニセヨーグルト。
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△小学校から帰るとこの店で働くマジッド君10歳。彼の下働きぷりをご紹介。
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△細かい洗いものはマジッド君の仕事。
  今日は例の赤い練り物が詰まった肉挽きの部品を洗う。
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△隅々まで丁寧に。
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△モツが陳列されていたお盆なんかもしっかり洗う。もうすぐ店仕舞いだ急がなくちゃ。
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△それから床の掃除。大人はいちいちどいたりしない。
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△ヒゲをくっつけられたマジッド君。みんなの下っ端でありムードメーカでもあるのだ。
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△肉屋をあとにして市場を歩く。香ばしそうなお菓子に目を奪われ、思わず足が止まった。
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△ゴマが表面についた焼き菓子だ。右のダンボールに入っている『アジョエッ』を買った。
  200gで15シリポン。中にずしっと重くドライな餡が入っており、味はあれっぽい。月餅。
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△食欲は一度刺激されるととどまらない。屋台で『フル』という豆料理を食べる。15シリポン。
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△その足で公衆浴場ハマムへ。入浴料は200シリポン。
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△洗い場と浴槽があるが、あくまで洗い場がメインのようだ。
  広い洗い場を一人でゆっくり使い、湯気のなか半裸で腰かけてゆっくりする、というコンセプト。
  世界屈指の入浴好き国家の日本人を満足させるには程遠い。
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△ハマムから出て帰り道をゆく。
  200シリポンてことは4ドルだから、銭湯より高くついたのか…。
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△シリア風ピザを買い食い。5シリポン。名前は聞き忘れたけれどトルコで『ピデ』と呼ばれるもの。
  中東のピザはうまくないと悪評だけれど、イタリアのピザを期待するからガッカリするのだと思う。
  味はあれっぽい。意外にもピロシキ。羊肉と玉ねぎを混ぜたのを生地に乗せて焼いてある。
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△「ハローミスター。どっから来た?まあ座れ」
  そんな風にして声がかかり、ピデのお供に都合良くお茶が出てくるのもイスラム圏ならでは。
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△はい。お忘れかも知れませんがここはアレッポ。
  石鹸はこんな風にして売られている。1kg125シリポンだの160シリポンだの。
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△夕飯はホテル近くのこの飯屋で食べることに。入り口で回転しているチキンは半分で120シリポン。
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△なす・ズッキーニ・トマト・玉ねぎの煮込み。意外性は無いが想像通りのやさしい味。
  右の皿のピンク色の漬物はあれっぽい。桜大根。緑色の大きなのはみずみずしく甘いピーマンのよう。
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△今日はやや散財気味だった。ATMでお金を下ろそうとした。
  ……えーと、画面がウィンドウズむき出しだけど大丈夫か。時刻も狂ってるし。
  タスクバーにみっしりプログラムが走ってるけど、俺のもちゃんと処理してね。
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△ヨーグルトドリンク『アイラン』を買って部屋に戻り、
  盛りだくさんの一日が終わった。ホテルの前にいたミカン売りが

  「シリアにようこそ!」

  と言って笑顔でミカンを1つくれた。種は多いが、日本のものにそっくりな味がした。

  このような人々の優しさはシリアに限ったことではない。イスラム圏に共通した特長だ。
  我々は会ったその時から『友達』であり『兄弟』である。
  物売りの口上では無く、多くの人が本気でそう言い、そう接してくれる。

  イスラム圏には損得勘定とは別次元の基準が織り成す人間模様があり、
  善人も悪人も富みも貧しきも、その儀礼から逸脱しようとはしない。
  そこには笑顔が挨拶が尊重があり、大いなる良心がある。

  そこに短所が無いとは思わないが、イスラムの人々に出会う以前の偏見が
  いかに的外れだったかを、旅の中で何度も痛感するのだ。



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